(書影)
早川書房さんより、逢坂冬馬さんの新刊『ブレイクショットの軌跡』をご恵投いただいた。
逢坂さんのデビュー作『同士少女よ、敵を撃て』では独ソ戦を舞台に性差別が蔓延し善良な男に見えた存在も、レイプカルチャーに加担する絶望的な模様と、それを打ちやぶる女性たちの絆と愛が、そして過去を知ることの意義が語れらた。
続く『歌われなかった海賊へ』では、ナチスに抵抗した子供たちの史実を元に虐殺がすぐそこで行われる世界で責任としての反抗が歴史の語りの重要性とともに示されている。前作の苦しみに満ちた男性像とは異なり、ここではセクシュアルマイノリティのアライとしての男性として善く生きようあがく像が、提示されていた。
新作『ブレイクショットの軌跡』では投資による空虚な上昇圧が蔓延する現代日本とそこから遠いように見えて近い内紛の続く中央アフリカを舞台に、この現代社会でどう善良に生きうるのか、ということが問われるづける。ある男性ゲイカップルをめぐる愛と家族がそこでは中心になるのだけど、愛に重点を置くことがアクセシュアル差別につながるという話が冒頭に出てくる点が良かった。
新刊の中には、体系性――一つの挿話を全体の論の目指すところの中で理解すること――をめぐる会話が挟まれている。私たちの歴史、現在、世界、それらをどういう体系に置くのか。3作品を通してそういう作家としての逢坂冬馬の姿勢が見えるようで胸を打たれる。
他にも色々な論点がある作品で、今後も逢坂冬馬の軌跡が楽しみ。